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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)601号 判決

主文

一  原判決中左の部分を破棄し、これに関する事件を仙台高等裁判所に差し戻す。

上告人等の本訴請求中本件買収処分の実体的違法を攻撃する部分を却下した部分

二  その余の部分に関する上告を棄却する。

三  前項に関する訴訟費用は、上告人等の負担とする。

理由

上告代理人林昌司の上告理由について。

一件記録と当事者間に争のない事実とによれば、上告人等の訴提起およびその変更に関連する事実関係は、およそ次のとおりである。

上告人等が初めて宮城県農業委員会を被告として本件買収計画に関する訴願裁決(棄却の裁決)の取消訴訟を提起したのは、昭和二三年五月八日であつた。上告人等が訴願裁決の取消を求める理由は、本件買収計画は所有者を誤認して定められたものであるから違法であり、従つてこれを是認した訴願の裁決は違法であるというにある。その後買収手続が進行し、昭和二四年一〇月一三日に被上告人宮城県知事から上告人小林重蔵に買収令書(昭和二三年一二月五日付)が交付された。次いで、上告人等は、昭和二七年八月二〇日午前九時の口頭弁論期日において、被告を宮城県農業委員会から宮城県知事に、請求を訴願裁決の取消請求から農地買収処分無効確認請求に変更した。一審において敗訴した上告人等は控訴を提起し、控訴審における昭和三〇年三月一〇日午前一〇時の口頭弁論期日において、再び、請求を、買収処分無効確認請求から買収処分取消請求に変更したが、原審は、出訴期間徒過を理由に、新請求を不適法として却下した。

以上の事実関係において、上告人等は、初めに、訴願裁決の取消を求めているのであるが、取消を求める理由は、訴願の裁決自体に形式的違法があるというのではなく、単に買収計画が違法であるが故にこれを是認した裁決は違法であるというにあることは前述のとおりであるから、上告人等が訴願裁決の取消を求めるのは、買収計画自体の取消をも合せて求める趣旨を含むものと解するのが相当である。そして、買収計画の取消請求は、買収行為の実体的違法を攻撃する部分のほか買収計画の形式的違法を攻撃する部分を含み、買収処分無効確認請求および買収処分取消請求は、買収行為の実体的違法を攻撃する部分のほか買収令書交付についての形式的違法を攻撃する部分を含む限りにおいて、前者と後二者とはまつたく同一請求であるということはできないが、買収計画の実体的違法を攻撃する限りにおいては、右三つの請求は、同じ請求を含むものと解して妨げがない。してみると最後の買収処分取消請求は、買収行為の実体的違法を攻撃する部分に関する限りすでに、買収令書交付前から訴訟が提起されていたのと同視すべきであり、右の部分に関する限り、本件買収処分の取消請求は、出訴期間の遵守において欠くるところがないといわねばならない。それ故、原審が買収処分の取消請求を出訴期間の徒過を理由に不適法として却下したことは、買収処分の形式的違法を攻撃する部分に関する限り正当であるが、その実体的違法を攻撃する部分に関する限り、失当であり、原判決中右部分は、爾余の論旨の判断を待つまでもなく、この点において破棄を免れない。

よつて、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条を適用し裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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